ざけんじゃねえ

岡崎二郎氏のショートショート(、というジャンル分けで良いのか判らないけれど)を本棚から出してきて風呂で読んだ。
アフター0―著者再編集版 (8) (ビッグコミックスオーサーズ・セレクション)の中に「想い出は結晶の中に」という話がある。

あらすじ(ネタバレです)

とある会社が自社の流通を管理するコンピュータ君を開発した。開発時男子プログラマがイタズラ心で綺麗なねえちゃんの擬似人格を作り、その擬似ねえちゃんにコンピュータ君を励まさせたところ、コンピュータ君は擬似ねえちゃんに惚れてしまうのだが、男子プログラマは擬似ねえちゃんをして“コンピュータ君が○年間仕事をきちんとこなしたら必ず再会してあげる(から、今はバイバイ)”と言わせ、放っておいた。

○年後、約束どおりきちんと仕事をこなしたコンピュータ君は再会に来ない擬似ねえちゃんに対し怒り、会社の利益を人質に取るなどの行動をとる。そこで会社側はコンピュータ君のシステムを開発したプログラマを洗って、擬似ねえちゃんを作ったまま放置した男子プログラマを探し出しコンピュータ君の説得にあたらせるが、コンピュータ君は擬似ねえちゃんプログラムに対して「自分を振ったのではない証拠を見せろ、約束を破ったからには俺の言う事を聞け、言う事を聞かないなら会社ごと心中だ」と横暴さを募らせるばかり。

そこで説得の場に居合わせた生身の女子(この人もプログラマ)が、とっさに機転を利かせて擬似ねえちゃんプログラムに新たな性格を付け加えた。曰く「ざけんじゃねえ!てめえ何様のつもりだ!こっちが下手に出てりゃ付け上がりやがってよ!(中略)馬鹿馬鹿しい、付き合いきれねえぜ!」それを聞いたコンピュータ君は自らの間違いに気付き、横暴さが消え、本来の仕事をこなすようになった。

感想

・・・この、男性プログラマが作った擬似ねえちゃんの態度が、赤面モノであった。「ああ・・私はあなたをひどく傷つけてしまったのですね、いったいどうすればよろしいのでございしょうか」「私はあなたの為ならこの身を犠牲にしてもかまいません、どうぞ何なりとおっしゃってくださいませ」・・・などなど。この、とことん相手に弱く結果的に不誠実なセリフを読みながら、自分の態度と重ねずにはいられない。自分は父親に対してこういう姿勢で生きてきたし、今もそうしようとする癖がある。父に最後に出した手紙にさえ、このような姿勢からでた言葉があった。私は父を加害者だと思い糾弾すると決めながら、「頑張って欲しい」と励ましのような言葉を載せたのだ。いまさら父に対して誠実であらねばならないとは思わないが、問題をこれ以上拗らせないように、単純明快であったほうがいいよね。と、「ざけんじゃねえ!」を見てしんみり思った。

ところでこの男子プログラマの作った擬似ねえちゃんは従順で賢くて、所謂理想の女性、という設定である。この作品は「理想ばかりでは埒が明かない」という主題の描き方がとても爽快な作品であるが、そういう埒の明かない理想を本気で夢見ちゃって恐ろしくも妻に娘に実践を強いる人間は決して少なくないだろう。私の父のように。