サバイブのこと(8)

私はその頃一人の男性と付き合っていた。サークルで一目ぼれした、例の先輩である。
先輩との付き合いは終始ギクシャクしていた。
私は性的な関係というのに構えを持っていて、念仏のように「きっと彼は兄とは違う、兄とは違う」を心の中で唱えながら彼に突進していった。今にして思えば、兄を超越する、性的であっても信頼できる人間関係(しかもそれを他人から一方的に与えられるという傲慢な幻想)を彼から得たくて仕方がなかったのだが、彼にしてみれば変に貪欲な女というだけだったようだ。私の貪欲さは性的な快楽への貪欲さのみだと解釈されていたように思う。なので彼と付き合っていて私が満足することは結局なかったが、向こうも同様だっただろう。


正しい性も正しい保護者も正しい家庭もいっぺんに欲しかった。その飢餓感といったら凄まじく、「ヒー!人を鬼に変えるー」とマジで思った。それら全てを彼一人に求めるのはさすがに無茶なので、とりあえず飢餓感が募ったときは自転車(笑)で夜道を走ったり友達を誘ってシャウトしたりして凌いだが、そのあと過食という方法も見つけてしまう。


過食を始める頃、私は大学そっちのけでアルバイトに熱中していた。働いている時間は他人を、しかも円満な優等生を安易に演じられる上、お金が手に入るので好きなものが買える。家にいなくていい(=居場所がある)時間でもあるので、飢餓感を紛らわすのに有効だった。小さい頃から体力がなく身体が弱かったので思うまま稼ぐことはできなかったが、それなりに稼いだ金で好きなものを買った。食べ物も沢山買って、食いまくるようになった。そして吐きまくった。吐くのは苦しいけど開放感が気持ちがよかったので、次は吐くことを目的に食べるようになった。それからゲロゲロまみれの時期が始まる。


1年半ほど付き合ってちょうど私が一人暮らしを始める時に、先輩は遠方へ就職していった。私はまだ相手から何かしら得られると勘違いしていたので「遠距離恋愛上等!」とばかりに食い下がったが、相手はなんとなく横暴な感じになっていくだけだった。自分の性の前では何でもする女だと思われつつあった。ギクシャク。

過食症について調べてみる↓
http://www.google.com/search?hl=ja&c2coff=1&biw=976&q=%E9%81%8E%E9%A3%9F%E7%97%87&btnG=Google+%E6%A4%9C%E7%B4%A2&lr=