サバイブのこと(7)

18-20歳頃、私は家で長男の姿も見かけなくなったし両親ともあまり交流しなくなった。高校時代から長男とは口を聞かなかったし両親とべったりってわけでもなかったが(かわりに自分自身とべったりだったけど。)、お互い狭い家の中で気配は感じ取って生活していた。大学生になってから私は家にいないように最大限の工夫をし、連日寝に帰っているような生活だったので、その気配に煩わされることも少なくなっていた。
母親だけが家で長男の一挙手一投足におびえて暮らしていた。母に聞けば長男に遭遇しないで効率よく食事や入浴を済ます時間帯と方法を教えてくれた。それほど母は兄に神経を使って生きていた。他の皆(私も含む)はそれを当てにしてちゃっかり利用し、母はその状態を基本にされてしまった。母が長男に邪魔だと怒鳴られると、父は母を『逃げられなくてバカだなあ』とばかりに憐れみ、私は長男に遭遇しそうになると母に『遭遇しそうになった』と不満をたれる。母は私に愚痴を言う、『こんなことアンタにしか言えないんだけど。お父さんには言わないでね』。あきれた関係である。


成人した冬のこと、長男が出没しないことを母に確認してから、私は台所でなにやら作業をしていた。しばらくすると背後に、誰か来た。私が気がついて母かと思って振り返ると、そこには四つんばいのポーズをとった長男がいた。長男は上を見上げてニヤニヤ嗤っている。私はひざ上くらいのスカートを着用していた。


ギャ〓!!


性虐待関係のストレスや恐怖が反射的に体の外に出たのはこれが初めてだった。
いつもは、
怖い→必死に咀嚼する(固まる)が、結局丸呑み→変な風に体に出る(ふらふらしたりぼんやりしたり) 
なのにこのときは
怖い→叫ぶ
だった。兄の暴力や家庭というものに関して自分なりに意見や自信がついてきたからだろうか。ようやく怖いものはペッと吐き出せたのだ。細かい分析は吐き出してからでもできる。


ギャーのあと、私は部屋に逃げて鍵をかけて泣き叫びながら、このまま脳みそが爆発して死ぬ!と思った。『俺が何したっていうんだ!?ええ?いってみろ!』と長男がわめいているのが階下から聞こえてくる。階下でダンダンガンガン音がする。追ってはこない。私の部屋に母親が駆けつけてくる。


それからまもなくアパートを借りた。要求したのは私だが借りたのは父。学生専用のアパートだった。
私の「兄におびえる家に暮らすのは異常」「ぜったいに兄に私の近況など言わないで欲しい」に対して父の反応は「わかったわかった(皆まで言うな)」という感じ。父が何をわかっていたのか、私にはいまだにわからない。