「ロストパラダイス文書」感想

昨日の日記http://d.hatena.ne.jp/duchesnea/20050529で触れた清原なつのの作品集だが、読んでから時間が経過してどんどん体に毒が回ってきた感じ。特に昨日「よその女を村に収着させるためのしつこい強姦、」と記した作品、「ロストパラダイス文書」はもう一度目を通してみたが、これは物凄い作品だ。

作中の村に子を産む女性が少ないかどうかは知らないが、その村の伝承を採集しに行った町の女子大生がかどわかされ、「瓜子姫」に擬えられながらアマノジャクである村の青年の嫁にされるというお話。

いつも読んだ物語に関して書くとネタバレですが今回は甚だしいので続きはこちら



あと、強姦って言葉が何回も出るような内容です。気分が悪くなりそうな方は気をつけてください

  1. 女子生徒が単位ほしさに教授に「なんでもする、奴隷になる」と口を滑らせて伝承採集のフィールドワークにでる
  2. 村に行くのにヒールの靴を履いていったため、遭難する(長距離歩く場所に村があることを知らされていなかった)
  3. 遭難後、助けられたおばあさん(偶然、目的の伝承を知るおばあさんであった)の家でもてなしを受け、酔いつぶされる
  4. 酔ったまま祭りの舞台で瓜子姫の役を演じさせられ、劇中で「アマノジャクがきても絶対戸をあけちゃいけない」と養父母にいわれたにもかかわらず、戸を開ける
  5. 舞台から運び出され、アマノジャクたちに強姦され、妊娠しなかったので殺される。
  6. 3の、おばあさんに助けられたところに意識が戻る。

女子生徒がただ歩いているだけ、いや、居るだけで、幾つもの悪い選択をしたことになっている。たとえば、教授に口を滑らせたこと。奴隷になるという言葉はさすがにやりすぎだが、単位の前でそういう姿勢になる人は意外多いのかもしれない。あとは、ヒールにミニスカートで村に行くこと。助けられた先でのもてなしにすぐ手を出すこと。アマノジャクの「何もしないから戸をあけてくれ」にまんまと騙されるところ。

また、4で酔ったまま瓜子姫を演じる女子生徒の描写がきつい。好きでもない生芋を食べる描写、朦朧としたままアマノジャクの口車に乗る様など、ここで女子生徒は1・2・3で示した危険への無自覚さを舞台の上で再演させられているように感じた。そして口がうまいアマノジャクの外見がほんとうにおぞましく、千と千尋の神隠しの「カオナシ」を土臭くした感じ。

6には続きがある。意識が3に戻ったのなら、ではそこで逃げればいいのだ。で、

7. 3でもてなしを受けずに逃げるのだが、逃げ疲れた頃アマノジャクに扮していない青年に遭い、まんまと騙されてまた4・5・6に進む。
8. 7をリトライ、また逃げる道中青年に遭うが今度は「ついていかない」というと騙すプロセスなしに力ずくで強姦され、4・5・6に進む。


・・・これは、強姦される側に落ち度があるというのがあまりにも「嘘」だということが書いてあるのだ、きっと。だけどそれを説明するのになぜこんなにしつこく「選択」の場面を描かねばならなかったのか。ヒールを履いていようがいまいが、戸をあけようがあけまいが、アマノジャクが妊娠する女を欲しがる限り、強姦されるってことだ。何度分岐点に戻って反省しても防ぎようがないってこと?
本当に問題を抱えているのは「強姦」しか選択肢がないかのような状況に自分たちを追い込んでいった村の者たちだ。もてないからって強姦のことばっか考える人はもっともてなくなるのが自然の掟だけと私は思うけど、それを主張することが許されている場所は、今の現実の身の回りにどれだけあるだろう?だから、清原さんは選択と失敗を何度も描いたのかもしれない。

その後、女子学生は何度も3・4・5・6をループして、「もう何もかもどうでもいい」と諦めたとたん妊娠し、村の一員として過ごしているそうです。そして、そもそもフィールドワークに出した大学の教授は数々の女子生徒を子産みアイテムとして送り込んでいるという構図が明かされる。・・・なんのため?言伝えや風習を守るため???

もしかしてこの話は物凄いホラーなのかもしれない。
でも荒唐無稽な怖がらせじゃなくて、切実な隠喩だ、少なくとも私にとっては。