怒涛のアレコレ

残虐記を読んでいてあまりにも自分の実感とシンクロする部分が多く、しかも流石というか期待以上というか、深層意識までもを表層化させる描写が多いので、私の意識の靄がかっていた一部分がだいぶハッキリした。そのため、しばらくはろくな感想も出ないだろう。触発されて出て来るのは自分のことばかりだ。

(序盤は「これ、ちゃんとフィクションだよね」という不安があったが、ちゃんとフィクションだった。(すみません)。残虐記は桐野さんご本人の中身であり、実際の事件の話ではないし、架空に作った事件に対する“推理もの”としても違和感がある。主人公の女性の空想力に焦点が当てられた物語だからである。)

以下怒涛

私が長年隠れて虐待を受けた事を両親は全く感づいていなかったのか?

私が両親に虐待があった事実を伝えたとき、返事の手紙には真っ先に許しだの癒しだのこれからは幸せになって欲しいだの、事後処理的なことしか書いていなかった。駄目押しで父の「自分の人生なんだったのかと思う」というどこにも届かない反省まで付いている。そのあとに私への質問は一切ない。

私は私の両親が、虐待に気が付いていて見殺しにしたのだという、考えを固めた。

私は家で何か動きがある度に、たとえば母親が回覧板を置いて来るという些細な動きに対しても「その先で長居はしないか、不在の間に兄は帰ってこないか」を確認していた子供であったはずだが、それでも両親が陰で兄に何かされているのではないかと疑わないのなら、私は意図的に生贄に出されていたのだ。あるいは、両親は自分らの長男による暴力の苦痛に夢中になって、私にも苦痛を強いたのだ。悪平等というやつである。
父は一度、兄から「ぐみに猥褻行為をした」と打ち明けられているのだから、尚更そうである。

父の夢の国

家の中は父の妄想の国であった。
父は兄の暴力を受け止めながらも「偉大な人物」である事は維持していた。私も父を偉大な人物だと思っていた一人である。兄は依存し膨れて暴力を振るいながらも父親を尊敬している。兄にとって「俺をだめにした」と騒ぐ標的は母であることが多かったように記憶する。父の地位は揺らがないのである。父が理想をもっと形よく実現していたらどんな家庭が出来上がっただろう?

家庭の中の女子

実家の母には結婚したときからもう母の役割しか残っていなかったが、子供でメスである私はどんな役割を与えられていたのだろう?小さい頃の私はそりゃああもう、可愛がられていた。学校に上がるくらいまでの自分の写真はどれも母ごのみの可愛らしい服を着ていて、まるで着せ替え人形のようで、見ていて鼻白む。お金にケチな父がよくもこんなに娘の服を買うことを許したものだ。

そのあと小学校に上がってもしばらくは着せ替え人形だった。兄による虐待も始まった。着せ替え人形として使えなくなってきたのは、私が自我を持つようになりヒネた視点でものを言いたがるようになって、外見が可愛くなく成長してきた頃からである。丁度、小学3年に上がる頃だった。

兄は私がブサイク*1になっても私を手放さなかった。これは当時の私にとってもの凄いショックであったが、自分が可愛くない事で辛うじて皮肉が成り立つため密かな満足感を覚えていたものである。

私はゆるゆるとブサイクな子供に成長して、中学に上がって兄と別居したときは足踏み状態であった。しかし高校に上がってまた加害者の生活と隣り合わせになったとき、私のブサイク能力は爆発した。(開花ともいうかも)。自分のブサイクを人の所為にして呪いたいわけではない。自分がブサイクであることでしか主張できないものを抱える子供だっただけだ。私は、私の成長の形を捻じ曲げる方法をサバイバルの手法に採用していたのだ。そのような理不尽で残酷な重荷を課した兄と両親を死んでも許さないが、残虐記の主人公と同様に、持てるものの全てを賭けて生き残った事は誇りでもある。

大学に上がった時点で、今度は社会でサバイブするためにマトモな外見になろうと努力した様子は以前にも書いていると思う。当分外の社会に向けてのみ自我を集中していたかったが、私の弱さも手伝って、両親は腐った家庭意識を持ち込んで私の周りから離れようとしなかった。挙句ほんの一寸マトモになった外見をさして「ぐみは幼稚園くらいの顔に戻ってきた」と満足し、私に依然と同じ役割を見出していたのだ。彼らは私を可愛がっている間は良い親でいられるため、幼少時とは違う熱心さで私のことに気を配ったに違いない。

自身の加害行為に苛まれて被害者に浄化を求める行為は、兄もやっていた事だ。兄は直接加害しておいて毎度のように許しを求めたので身も蓋もない上に笑えないギャグだが、両親のそれはもっと巧妙である。私は両親は全く懲りていないのだ、という実感に随分蝕まれたものだ。

地元を離れてしばらくして、私は生き易くするために努力して外見をもうほんのちょっとマトモにした。最後に父親と会ったとき、久々に私の風貌を見た父の顔が不愉快で忘れられない。父の表情は、私に性的なものを見出し満足した表情だった。そしてその日、屈辱の「子供を産め」という発言をして父は帰っていったのである。

本当の問題

実家の腐臭は実は親戚関係の間や、たぶん隣近所にも臭いが漏れている。母はたまに親戚から「●●くん(←兄の名前)どうしてるの?」と電話で聞かれては適当に誤魔化していたようで、それをうっかり父に「●●のこと聞かれたわよ」と伝えると、長男に対する外部の干渉を嫌う父にとって耳障りだという理由で母はこっぴどく怒鳴られるそうだ。
実家はボロボロながらも辛うじて父の妄想の国健在なのだ。私が実家の問題を提起して解体したいと告げたら、父は間接的に外の情報を伝えた母に対したどころではなく、私を猛攻撃したいだろう。

家庭内暴力をはじめてからは過度に父に干渉を受けた兄は父の世界でのみ学習をしたに違いないのだ。だから成長しても何か問題があると父の元に駆け寄り、今でも離れられない。だが父はきっと兄より早く死ぬ。兄にとって父の死とは、父が固執し兄が屈辱と憧れを持って眺めていた、妄想の国を手に入れる瞬間ではないのか。(さしずめ私を虐待しているときは父のおこぼれに与っているときというべきだろうか)。父の国の駒(母や昔の私、その他色々)を成り上がって手に入れるというよりは、自由に独自の駒を物色して父に倣おうとするのではないかと思う。彼の手に入れられる駒とは限られていて、やはり、弱い生き物だろう。

せめて父が自らの妄執を打ち砕いてくれれば物事は進むのだが。
そして私は父の妄執を打ち砕く目的と権利だけは、とんでもない代価を支払わされて手に入れている。

*1:ここで言うブサイクは、形の不細工さだけではなく、対外的な素直さの欠如や怠慢さなんかも含めます