海辺のカフカ 感想

海辺のカフカ君は15歳でとんでもない重荷を背負っている。暴力は世の理と言わんばかりだ。彼が背負ったものとは
・級友?に対する暴力
・レイプ
・殺人
こんな非道を主人公にさせる原動力は
・父親がサディスティック
・母親は生きる屍状態でカフカ君を生み、捨てた
ということらしい。
カフカ君の犯した罪のうちレイプと殺人はサド父親から呪いの予言をされていたという駄目押しぶり。
しかもカフカ君は自分の犯した罪に対して言い訳することを許されていない。主人公とことん愛されてないなあ。薀蓄やサバイバル術は与えられていても、こんなに愛されていない出自を持つ主人公は見たこともない。


犯した罪に言い訳するのを許されていない代わりに、
・級友?に対する暴力→朦朧。記憶がない
・レイプ→夢の中。未遂
・殺人→代理人が行う。なぜか血は自分についていたが朦朧、記憶がない
というあまり潔くない逃げ道が用意されている。このくらい理不尽な逃げ道がないとやっていられない物語だということもあるのだろうか。ちなみに、過去の朦朧暴力沙汰でカフカ君は自宅謹慎を食らっていたらしい。彼は物語はじめには「夢の中で行ったことこそが大事」といっていた。結末では「夢の中のレイプは罪じゃない」に変化。もう自分が朦朧としない自信がついたのか?だとしたらこの変化は成長。殺人については、未解決。


原動力も首尾よくつぶされてゆく。


・父親がサディスティック
代理人による父殺し+父の死後異空間で父に対峙し、殺意を明らかにする。完全な敵対を形成。父子関係が終了した後で対峙するあたりが、用心深い作家さんだ、村上春樹さんは。


・母親は生きる屍状態でカフカ君を生み、捨てた
→母の15歳当時(その頃は生ける屍ではなかった)を知り、15歳の母に恋をし、現実の50代の母と肉体関係(避妊しない、飲みこむとかアリ)を持つ。母の死後異空間で、母からの遺産を受け取る約束をする。現実の世界に戻ってきてから、現物を受け取る。
・・・これは原動力が潰されていくというよりは、取り込まれていったって感じ。


飽くまでもこの母親は「母親と仮定する」ことにしてあったのがどうにも嫌な感じだ。結局赤の他人だったのなら、15歳とセックスして避妊もしない困ったおばさんだ。本当に母親だったら、捨てた上性的にしか息子に関われないダメダメ人間では?その烙印を避けるための「仮定」なのか。しかし仮定がなくてもこの人、カフカ君を失った恋人と重ねたり(カフカ君嫉妬しつつも重ねられ続けるうち、凌駕した気分になっていたようだが)、少女のまま時間を止めてみたり、意志の力が強いのはわかったけどやりすぎだ。


カフカ君はとんでもない親に振り回されて「世界一タフになる」と決意し続けなければならない少年だということか。意識が飛んで暴力を振るう。レイプする夢を見る。手は父の血に染まっている。性器は母にくわえられている。すべてが受身で起こったことではないという悪夢。でも生きる。

そういや同じようなテーマで昔流行ったエヴァンゲリオンというアニメがあったが、あちらの主人公は無様になることに腐心し、カフカ君は気障になることに切磋している。これらは主人公たちが持った武器=読者を口説く術だと思うのだが、彼らの違いがちょっと面白く感じる。